TPUフィラメントとは?柔軟性と弾力性が高い素材の特性と使い方を詳しく解説
3DプリンターでTPUフィラメントを使いたいけれど「造形が難しい」というイメージから、挑戦をためらっていませんか?
この記事ではTPUフィラメントの基礎知識からメリット・デメリット、具体的な造形方法、保管の注意点までを解説します。記事を読めば、初心者でもTPUフィラメントを正しく扱う知識が身に付き、3Dプリンターを使った造形物の幅を大きく広げられます。
3DプリンターでTPUフィラメントを使う場合、低速での造形設定と徹底した湿気対策がポイントです。
TPUフィラメントとは柔らかくて弾力のある3Dプリント素材

TPUフィラメントはゴムのような柔軟性と弾力性を持つ3Dプリンター用の素材です。TPUフィラメントの特性と用途について詳しく解説します。
3Dプリンターで使用するTPUフィラメントの特性
TPUフィラメントはゴムのような弾力性を持ち、傷や衝撃、薬品に強いといった多くの優れた特性を持っています。素材は「熱可塑性エラストマー」というプラスチックの一種です。熱で柔らかくなり、冷えると固まる性質があるため、複雑な形も3Dプリンターで自由に作れます。
TPUフィラメントの特徴は以下のとおりです。
- ゴムのような弾力性
- 高い耐摩耗性
- 優れた衝撃吸収性
- オイルや薬品への耐性
- 選べる硬度
- 吸湿性
TPUフィラメントの多彩な特性を理解すれば、素材の可能性を最大限に引き出して、3Dプリンターによるものづくりが可能です。
TPUフィラメントの用途
TPUフィラメントは柔らかさと弾力性という特性を活かして、身の回りのものから専門的な部品まで、幅広い用途で活躍します。ゴムのようにしなやかで衝撃に強い性質が、多くの製品に適しています。
TPUフィラメントの用途は以下のとおりです。
- スマートフォンケース・バンド
- ドローン・ラジコンのパーツ
- 保護カバー・バンパー
- インソール・サンダル
- 滑り止めグリップ
- パッキン・ガスケット
- 治具・固定具
- 工業用部品の試作品
- 医療用シミュレーションモデル
- ケーブルホルダー・プロテクター
3DプリンターでTPUフィラメントを使えば、趣味のDIYから本格的な造形物の開発まで、アイデアを形にできます。
» J-STAGE「上肢機能の変化に伴い 3D プリンタで作製した自助具の変更が日常生活における麻痺手の習慣的使用を促した回復期脳梗塞患者の一例」(外部サイト)
TPUフィラメントのメリット3選

TPUフィラメントのメリットは以下のとおりです。
- 柔軟性と弾力性が高い
- 耐摩耗性・耐衝撃性が良好
- 耐油性がある
柔軟性と弾力性が高い
TPUフィラメントはゴムのように柔らかく、高い弾力性を持つ点が大きなメリットです。力を加えても元の形に戻るので、壊れにくい造形物を作れます。
TPUフィラメントは以下の優れた特性を持っています。
- ゴムのようにしなやかで、自由に曲げたりねじったりできる
- 力を放すと元の形に戻る、高い弾力性と反発性がある
- 落下の衝撃を吸収するクッション性があり、破損しにくい
- 繰り返しの折り曲げや伸縮に強く、ひび割れしにくい
3Dプリンターで作りたいものに合わせて、さまざまな硬さの素材を選ぶことが可能です。
耐摩耗性・耐衝撃性が良好

TPUフィラメントは摩擦や衝撃にとても強く、壊れにくい部品作りに適しています。素材がすり減りにくく、ゴムのような弾力性で衝撃を吸収する性質があるからです。落としたりぶつけたりしても、造形物が壊れにくい特徴があります。
TPUフィラメントは以下のアイテムの造形におすすめです。
- スマートフォンケース
- ドローンの保護パーツ
- 工具のグリップ
- ギアやローラー
TPUフィラメントは繰り返しの曲げ伸ばしにも耐えられるので、ヒンジやベルトのような可動部品にも向いています。屋外で使うものやタフさが求められる製品の寿命を延ばすのに役立ちます。
耐薬品性・耐油性がある
TPUフィラメントは油に強いメリットがあります。工場で使われるオイルやグリスといった油に触れても、劣化しにくい性質を持っています。TPUフィラメントは日常生活で触れる皮脂にも強いので、幅広い用途で活用が可能です。
TPUフィラメントは以下のパーツの製作に役立ちます。
- 自動車・機械の部品
- 工場の治具・保護カバー
- スマホケース・工具のグリップ
油が使われる環境でも安心して使える点は、TPUフィラメントの大きな強みと言えます。
TPUフィラメントのデメリット3選

TPUフィラメントには以下のデメリットがあります。
- 造形の難易度が高い
- 吸湿性が高く湿気に弱い
- TPU対応の3Dプリンターが必要になる
造形の難易度が高い
3DプリンターでTPUフィラメントを使ってきれいに造形するには、温度やスピードの繊細な調整が必要です。素材自体がゴムのように柔らかいため、印刷中にさまざまなトラブルが起きやすく、きれいな造形物を作るにはコツがあります。
» 日本機械学会「FDM 式 3D プリンターにより造形した熱可塑性ポリウレタンの造形品質に及ぼす吐出速度の影響」(外部サイト)
素材の柔らかさが原因で以下のトラブルが3Dプリンターで起こりやすくなります。
- フィラメントの詰まりや絡まり
- 糸引きの発生
- 設定の難しさ
- 造形物の垂れ
- 剥がす際の変形
お使いの3Dプリンターできれいに造形するための最適な設定を見つけなくてはいけません。
吸湿性が高く湿気に弱い

TPUフィラメントは空気中の水分を吸収しやすい性質があり、湿気に弱い点がデメリットです。TPUフィラメントが水分を含んだまま3Dプリンターで造形すると、加熱時に水分が気化し、さまざまな造形不良を引き起こします。
湿気を吸ったTPUフィラメントを使用すると、以下の問題が起こりやすくなります。
- 印刷中にノズルから「パチパチ」という異音が発生する
- 造形物の表面に気泡ができたり、不要な糸引きが発生したりする
- 層と層の接着が弱くなり、完成品がもろくなる
- 素材本来の柔軟性や弾力性が失われる
湿気はTPUフィラメントの性能を大きく低下させる要因です。素材を活かすためにTPUフィラメントは湿気を避けて保管しましょう。
TPU対応の3Dプリンターが必要になる
TPUフィラメントで造形するにはTPUに対応した3Dプリンターが必要です。TPUはゴムのようにとても柔らかい素材なので一般的な3Dプリンターでは材料をうまく送り出せず、途中で詰まってしまいます。
TPUの造形には材料を送り出す装置がノズルのすぐ上にある「ダイレクト式」の3Dプリンターがおすすめです。ダイレクト式の3Dプリンターは材料を送る経路が短く、柔らかい素材でも安定して造形できます。送り出す装置とノズルが離れている「ボーデン式」のプリンターは不向きです。
TPUに対応していない3Dプリンターで造形するとフィラメント詰まりを起こします。造形の失敗だけでなく、3Dプリンターが故障する原因にもなるので注意が必要です。
TPUフィラメントを3Dプリンターで使う方法4ステップ

TPUフィラメントを3Dプリンターでうまく使うには以下のステップを踏んでください。
- 3Dプリンターを適切な条件に設定する
- プラットフォームに定着するように造形する
- 造形後は変形しないようにゆっくり剥がす
- バリ取り・仕上げで完成度を高める
① 3Dプリンターを適切な条件に設定する
TPUフィラメントで高品質な造形物を作るには3Dプリンターを適切な条件に設定する必要があります。TPUフィラメントは一般的なプラスチックと同じ設定で造形すると、3Dプリンターのノズル詰まりの原因になります。
きれいな造形を目指すために以下の設定項目を見直しましょう。
- ノズル温度:220〜250℃
- ヒートベッドの温度:40〜60℃
- 造形速度:20〜40mm/s
- リトラクション(材料の引き戻し):機能を無効、または低速(20〜100mm/s)・短距離(0.5〜2.0mm)で設定
- 冷却ファン:オフ、または低速
3Dプリンターの設定を一つひとつ丁寧に行うことで、TPUフィラメント特有の造形の難しさを乗り越えられます。
② プラットフォームに定着するように造形する

3Dプリンターで造形を成功させるには一層目がプラットフォームにしっかり定着することが大切です。TPUは柔軟性が高い素材で反りは起きにくいですが、定着が不十分だとノズルに引きずられて造形物が剥がれてしまいます。一層目が安定してくっついていないと、後の層もきれいに積み重ならず、造形が失敗してしまいます。
プラットフォームへの定着力を高める方法は以下のとおりです。
- プラットフォームの加熱
- シートやテープの使用
- のりやスプレーの塗布
- ラフト(土台)・ブリム(周囲の縁)の設定
- ノズル距離の調整
TPUフィラメントがプラットフォームにしっかりと定着すれば、造形の失敗を大幅に減らせます。
③ 造形後は変形しないようにゆっくり剥がす
3Dプリンターによる造形後は変形を防ぐためにゆっくりと慎重に剥がします。TPUフィラメントは柔らかい性質を持つため、温かい状態では簡単に形が崩れてしまいます。造形物とプラットフォームが完全に冷えてから作業に移りましょう。
剥がす際はスクレーパーやヘラを使い、造形物の端にそっと差し込みます。てこの原理を利用して少しずつ剥がしていきます。急に力を加えると造形物が壊れるので、慎重に進めてください。3Dプリンターのプラットフォームがしなるタイプの場合は、プラットフォームを曲げて造形物を浮き上がらせます。
④ バリ取り・仕上げで完成度を高める
3Dプリンターの造形物はひと手間加えるだけで完成度を大きく高められます。3Dプリンターで造形したものはサポート材の跡や「バリ」と呼ばれる突起、表面の糸引きなどが残っています。バリなどを取り除き、造形物の見た目を美しくしましょう。
3Dプリンターの造形物の仕上げ作業では以下の点に注意してください。
- ニッパーやデザインナイフでバリなどを丁寧に切り取る
- 表面にできた糸引きはヒートガンやドライヤーの熱を当てて溶かす
- 素材が伸びるので手で無理に引きちぎらない
TPUは柔らかく、ヤスリで削ると表面が毛羽立ってしまうので注意が必要です。適切な道具で3Dプリンターの造形物を丁寧に仕上げて、お店に並んでいる製品のようなクオリティに近づけましょう。
TPUフィラメントで造形する際の注意点

TPUフィラメントで造形する際の注意点は以下のとおりです。
- 3Dプリンターの造形速度は低速に設定する
- TPUフィラメントは乾燥剤と一緒に密閉保管する
3Dプリンターの造形速度は低速に設定する
TPUフィラメントできれいに造形するためには3Dプリンターの造形速度を低速に設定します。TPUフィラメントを速いスピードで押し出そうとすると、材料を送り出す機械の中で詰まりやすくなります。材料の供給が不安定になり、3Dプリンターの造形物の仕上がりが汚くなる原因の一つです。
3Dプリンターの設定は20〜40mm/sほどのゆっくりした速度での造形がおすすめです。低速で造形すると一層ずつが冷えて固まる時間を十分に確保できるので品質が安定します。造形中に発生しやすい糸引きを抑えるためにも、安定して材料を送り出せる低速設定が役立ちます。
TPUフィラメントは乾燥剤と一緒に密閉保管する
TPUフィラメントは必ず乾燥剤と一緒に密閉して保管してください。TPUは空気中の水分をとても吸収しやすい性質を持っています。湿気を吸ったTPUフィラメントを使うと、造形物の表面がザラザラになったり、不要な糸を引いたりします。完成した造形物がもろくなり、本来の強度が出せません。
造形中に3Dプリンターのノズルからパチパチと音がする場合、フィラメント内部の水分が原因です。保管は乾燥剤と一緒にジップロック付きの袋や専用の防湿ケースに入れて空気に触れないようにしましょう。長期間使っていなかったTPUフィラメントは使用前に乾燥させることで、失敗のリスクを減らせます。
3Dプリンターで使用するTPUフィラメントに関するよくある質問

3Dプリンターで使用するTPUフィラメントに関するよくある質問をまとめました。
TPUフィラメントとTPEフィラメントの違いは?
TPUとTPEはどちらもゴムのような柔軟性と弾力性を持つ3Dプリンター用のフィラメントです。TPUは硬度の範囲が広く、柔らかいものから硬いものまで多様なバリエーションがあります。
3Dプリンター用フィラメントとして比較した場合、TPUはTPEよりも造形しやすく、耐久性や耐油性に優れています。一方、TPEはより柔軟で弾性に優れていますが、3Dプリンターでの取り扱いが難しい材料です。
TPUフィラメントでうまく造形できない場合の対策は?
TPUフィラメントがうまく造形できない場合、3Dプリンターの設定やフィラメントの状態を見直します。TPUフィラメントの造形に失敗したら、以下の対策を試してください。
- 造形速度を20~40mm/sの低速に設定する
- リトラクション(材料の引き戻し)を無効にするか、ごくわずかな設定にする
- ダイレクト式の3Dプリンターを使う
- 造形前にフィラメントをドライヤーで十分に乾燥させる
- メーカー推奨温度の上限付近に設定する
- 冷却ファンの回転数を下げるか、オフにする
- ビルドプレートの水平を調整し、ノズルとのすき間を狭くする
- スティックのりやマスキングテープをビルドプレートに塗り、定着を助ける
- フィラメントを送るギアの圧力をフィラメントを潰さない程度に調整する
適切な調整をしてTPUフィラメント特有のトラブルを解消しましょう。
» 日本ロボット学会誌「熱溶解積層法を前提とした垂直多関節ロボットとハンドの機械設計・製造」(外部サイト)
3DプリンターでTPUフィラメントを使うと造形物の幅が広がる!

3DプリンターでTPUフィラメントを使用すると、柔軟で衝撃吸収性のある造形物を作れます。スマートフォンケースやドローン用パーツ、機械部品など、個人の趣味から企業の製品開発まで幅広い用途に活用できます。
TPUフィラメントで3Dプリンターの可能性を最大限に引き出し、創造性を新たなレベルへと高めましょう。